ノスタルジーなコロッケパンの話 ~銀座・チョウシ屋の熱々コロッケ~
銀座をブラブラとしていたらふとコロッケパンを食べたくなった。
なぜ銀座でコロッケパンなのか、というとチョウシ屋という肉屋があるからだ。
なんでも日本で初めてコロッケを売った店らしい。
子供の頃は肉屋で買うコロッケがなによりのご馳走だった。
母親と一緒に買い物に行って、帰りに熱々のコロッケを買ってもらう…
新聞紙にくるまれたコロッケはちょっと活字の匂いがしみついたりしていて、
独特の味をしていたのが記憶に残っている。
個人的なファーストフードの元祖といえば、コロッケであることは間違いない。
さて、チョウシ屋は昭和2年創業の老舗中の老舗である。
歌舞伎座の裏にある小さな店だが、なにやらこの店の付近だけ南砂町商店街、みたいなのんびりとした空気が漂っている。
ここチョウシ屋ではオーダーを受けてからコロッケを揚げる。
目の前でジュウジュウといい音を立てて、こんがりとキツネ色に染まっていくコロッケを見ていると幼い日の記憶がふと甦ってくる。
「オレのコロッケが揚がっていく…」という思いからよりコロッケに愛着が沸いてくるのである。
揚がったコロッケはおかあさんがザクッと包丁で真っ二つに切る。
揚げたてだけに本当にザクッ、という音がするのだ。
コロッケは音で楽しむ食べ物、ということに気がついた。
コロッケを挟むパンはコペパンか食パンかを選択できる。
熱々のコロッケにソースをダラッと掛けて食パンに挟んで食べる…
気持ちの良い公園で食べたらきっと至福の時間を味わえるに違いない。
残念ながら食パンは終わってしまっているとのことで、コペパンに挟んでもらうことにする。
コペパンに洋辛子をサラッと塗って、コロッケを挟み込む。
これだけ、である。キャベツの千切りなども入っていない。
この辛子がほどよく効いていて、食欲を増進させるのである。
歩いて数分のところに京橋公園があるので、そこで食べることにしてみる。
気分的には小学校時代に愛飲していた森永の三角パックのコーヒー牛乳が欲しいところだが、
さすがにそれは手に入らないだろう。
いまも三角パックのコーヒー牛乳は存在しているのだろうか?
ご存知の方がいたら教えてください。
コロッケはやや油がもったりとするものの、昔懐かしきコロッケを彷彿させる。
ひんやりとしたパンと熱々のコロッケを同時にガブリ、とやると口の中で美味しさが倍増するのである。
数年前に神戸屋コロッケが流行って、コロッケにスポットが一瞬、当たったが、
この味は一過性のものではないことをひしひしと感じる。
郷愁を思い起こさせる味、とでもいうのであろうか。
公園のベンチに座って、コロッケパンを囓っていると
ふと子供の頃にジャングルジムから落ちて頭から血を流したことだとか、逆上がりのしすぎで頭に血が上ってふらふらになったことなどを思い出した。
なんでだろ?
最後の方になるとご馳走になるのがソースの染みこんだパン、である。
これが何とも味わい深くて良い。
子供の頃にご飯に醤油をかけただけの醤油かけご飯が好きだったが、
シンプルながら味わい深いのである。
都心の小さな公園でチョウシ屋のコロッケパンを頬張るほど幸せなことはない。
いまっぽい味ではなく、昔ながらのコロッケだからこそ味わえる幸せなのであろう。
こういう素朴さをしみじみと実感できる自分がなんとも素敵な存在に思えてきた。
●チョウシ屋
東京都中央区銀座3-11-6
電話:03-3541-2982
営業時間:11:00~14:30 16:00~18:00
定休日:土曜、日曜、祝日