祝100回記念 世界最強のビアホールで憩う ~浅草「正直ビアホール」はふれあい酒場~
そんなわけで、めでたく100回目を迎えました。
ご贔屓にしていただいている皆様、ありがとうございます。
記念すべき100回目だけにここはひとつ、SPECIALな店で。
その名も「正直ビアホール」。
名前を聞いただけで思わずB級魂がうずく、浅草の外れにある素敵な店である。
(正直ビアホールの看板が燦然と輝く)
ビアホールといってもカウンター8席のみの小さな店だ。
昭和23年創業時の面影が残り…というか、そのまんまの風体を保っている。
店のそこかしこにみられる器具やら置物やらには58年くらいの年月が感じられ、それが心地よい空間作りに一役買っている。
なんというか、妙に落ち着くんですね。
いにしえのものに囲まれると人はなぜ落ち着くのか?
これからの研究課題である。
店を訪れるのは4年ぶりになるか。
当時も日韓ワールドカップで盛り上がっている時期であったのを思い出す。
時間は18時過ぎたばかり。先客は2人いた。近所の常連らしく、世間話に花を咲かせている。
小さなテレビからは巨人-楽天戦が流れている。
先代のご主人が大の巨人ファンで、ナイターを見ながら一喜一憂していたのを思い出した。
壁には年代物の巨大な長島の羽子板やら王のポスターやらが掛かっており、それもまたいい感じにひなびている。
そうそう、この店を初めて訪れたのが、15年ほど前。
無骨だが人のよいご主人が差し出すビールのうまさと和気藹々とした店の雰囲気に魅せられて、気が向くとよく足を向けていた。
当時のご主人は数年前に他界され、いまは奥様が3代目の主人として切り盛りをされている。
「ビール、お願いします」
60代とおぼしきおかあさんは顔にしわ一つなく、薄化粧も粋な感じだ。
サーバーは一つのみ。年代物のサーバーはいまどき珍しい氷で冷やすタイプの優れもの。
風流な寿司屋なんかだとネタを氷で冷やしているところがあったりするが、まさにこの店も風流なビアホール。
(これが伝説を生み出すビアサーバーである)
ビールなんてものはキンキンに冷えていればいい、と思っている方も多いことだろうが、ところがどっこい、正直なビールを飲んでしまうと本当に美味なビールとは気配りなんだと思い知らされる。
極薄のグラスにおかあさんは丁寧に何度も何度も泡を切っては注ぎ直す。
その手間と愛情が極うまのビールを生み出すのだ。
まずはこの極上ビールを一杯いただく。
泡のきめ細かさなんかは、ちょっとビールの注ぎ方を習ったくらいの、なんとかマイスターなんかとは比較にならん。
適度に冷えたビールがゴクゴクと喉の奥へと消えていく。
うまい…なんというかしみじみとうまい。
あっという間に一杯目を飲み干す。
メニューはビールのみ。
おつまみはチーズやら乾き物やらがビール1杯につき2品つく。これで600円。
2杯目をいただいているとまた常連のおかあさんがやってきた。
ママ、ママと呼ばれているからどこかの店のマダムなのだろう。
マダムはお手製のおつまみを持参してきた。
ジャガイモとザーサイの和え物だ。
(マダムお手製のお総菜。ビールにピッタリの美味な一品でした)
先代の頃はおつまみに自家製のおでんがあったが、いまはなくなっている。ので、常連さんなんかはタッパに自家製のおつまみを持参してくるのである。
もちろん、見ず知らずの客にも振る舞ってくれる。
あたたかい…店もあたたかければ人もあたたかい。さすが正直者のビアホールだけのことはある。
いつの間にか私も話の輪の中に加わっていた。
常連さんたちが自然に話の中に引き込んでくれるのだ。
このあたりも実にあたたかい。
先代の頃はちょくちょく寄らせていただいてました、というと昔話に始まり、次から次へといろいろな話題が飛び出てきた。
興味深かったのは北野武のスポンサーの話。ダヴィンチコードの話から北野映画の話になって、スポンサーの話に飛び火した。某劇場の女主人やら某漁船の船長やらががっちり囲っていて、ちょくちょくたけしも顔を見せるとのことだった。
気がつくと2時間が経過し、ビールも5杯目が空になりかけている。
なんと居心地のよい店なのだろうか…
普通、ビールなんてものは1リットルも飲めば腹が一杯になって違うものが飲みたくなるものだが、ここのビールはホントに何杯もいける。
私も2リットル以上、飲んだ計算になるが、まだまだ飲み足りない、そんな感じだった。
実に不思議である。
ビール自体のうまさももちろんあるが、天下無双の居心地の良さも大きな要因であることは間違いないだろう。
帰り際にマダムは「お兄さん、表情がだいぶ優しくなったわね。最初はもっと険しい顔してたもの」と言って笑った。
なるほど…表情の優しくなる店か…愛川欽也チックなCMっぽいが、まさにこの言葉にすべてが集約されているような気がした。
後ろ髪が引かれる思いで店を後にしたが。また近いうちに店を訪れたいと思う。
今度は、店のお母さんやお客さんたちと同様のもっとよい笑顔が出せるだろう。
(すんません、少し飲んでしまいました。
極上の泡をお見せできなくて残念)
正直者のビアホールは下町人情にあふれた素敵なお店なのである。
●「正直ビアホール」
住所:東京都台東区浅草2-22-9
営業時間:18:00頃から23:00頃まで
定休日:無休