夏の番外編 真夏のバーベキューは命懸け ~地獄の多摩川CUPの思い出 その2~
そんなこんなで、いよいよ本日のメインイベントがやってきた。
本日のメインイベント…それは大告白大会、なんて甘っちょろいもんじゃない。
「史上最強のイッキ大会」
これが本日のメインイベントである。
D通関係の体育会出身者や業界のイッキ自慢の男どもが50人以上は参加しただろうか。
ルールは過酷を極めた。
全員で一斉にグラスビールをイッキをして、一番遅かった者が一人脱落していく、というものであった。
つまり優勝するには50杯以上もイッキ飲みをしなければならないのである。
しかも素早く、にである。
密かに私は自信があった。
数々の飲み会を制してきた実績と胃袋がモノを言うはずだと。
高校時代、応援部にいた私は下級生時代にイッキで鍛えられた。
体育会対抗イッキ大会では無敵を誇っていた。
大学時代には大ジョッキをわずか5秒で飲み、見る者のド肝を抜いてきた。
序盤は楽勝。
次々とヤサ男たちが脱落していく。
残り20人、既に酒量は5リットルを越えているだろうか…ここからが本当の戦いの始まりである。
虎視眈々と優勝を狙う猛者どもはライバルたちの動向に注目している。
既に周囲は暗く、かがり火の中での戦いになった。
審査員には友人Tの兄、二代目桃太郎侍氏や件のS氏などが厳しい目で見つめる。
グラスの中にビールが残っている、ビールをこぼしている、などが発覚したら即失格になる。
思えばこのときが一番苦しかった。
優勝までの道のりはまだ途方もなく長く、腹はすでにパンパンに張っている。
そもそもこの前にもだいぶビールを飲んでいた。
私はもうやめよう、ここで負けてもいいじゃないか、うんうんよくやったなどと相当弱気になっていた。
長いイッキ人生の中でもかなりの苦行であった。
もし、あそこで自ら負けを選んでいたらいまの私はなかったであろう。
くじけそうになった闘志を再び燃えたぎらせたのは、あのバカ男、Mが視界に入ったからである。
ヤツは「こんなもんに一生懸命になってバッカじゃねぇ」みたいな態度でへらへらと見ている。
「殺す…」
その一心だけでビールを飲み続けた。
気がつくと残り5人。
ここからはコンマ1秒の世界を争うF1の世界に突入する。
腹はたっぷんたっぷん、限界はとうに超えている感じだ。
そんなときだった。
おそろしいくらいの尿意がもよおしてきた。
なんだか3リットルくらいは雄に出そうな尿意である。
「早く終わらせたい…」
もう私の中にはMのことも優勝のことも頭になかった。
とにかくこのバカげた争いに終止符を打って、一刻も早く草むらに駆け込みたい、それしかなかった。
競走馬を見極める格言にこんなものがある。
レースの前にボロ(糞)をした馬は走らない
つまり、レース前にすることをしちゃったら安心しきちゃってがむしゃらに走らない。それとは逆にトイレを我慢している馬は一刻も早くすっきりしたいからレースではがむしゃらに走るのだと。
真偽のほどは眉唾ものだが、このときの私もトイレ我慢の底力が発揮されたのではないか。
もしかしたら、生まれて初めて限界を超えた瞬間かもしれない。
私は大方の予想を裏切って見事に優勝した。
女の子たちの注目を集めているかもしれない。
本来の目的だった合コンのヒーローになれるかもしれない。
しかし、そんなこたぁーどうでもよかった。
とにかく一刻も早く、一刻も早く、草むらへと駆け込みたかった。
私は優勝の挨拶もそこそこに川べりの茂みへと走った。
そして、私が大量の尿を放出した後で、その事件は起きたのである。
(再び続く)