オムライスとオムレツライスは違うんである ~人形町「小春軒」のこだわりとは?~
この間、人形町界隈をプラプラと歩いていたら、やたらと妊婦の姿が目についた。
すぐそばにある水天宮に安産祈願に来た人々であろうが、
それがものすごい数なんである。
日本は本当に少子化に悩んでいるのか?
と疑問に思うくらいうじゃうじゃと妊婦様がいらっしゃる。
どうも今日は戌の日で、安産祈願にうってつけの日らしい。
この妊婦様たちほどではないが、あいもかわらず「玉ひで」の行列は凄まじい。
夏の暑いさなか、ゆうに1時間以上は並ぶであろう行列の最後方に並ぶ人間の気持ちがどうもいまひとつわからない。
おそらくはわざわざ遠征してきた人々なのであろう。
たとえ、どれだけ並ぼうが絶対に食べたい!という意欲に燃えた人だ。
きっと3時間待ちのビッグサンダーマウンテンの行列にだって並ぶことであろう。
私は大行列に並べる人というのは、強固な精神力の持ち主か何も考えていない人だと思っている。
30分くらいならまぁ、許容範囲だとしても1時間はとてもじゃないけど待てない。
これを逃したらもう二度と食べられないかもしれない、と思えば並ぶかもしれないが、
普通であれば次回にチャレンジ、ってなことで他の店を探す。
このときに、いかにいろんな引き出しを持ってるかが大事なんだなぁ、とつくづく思う。
他によい店がわからなければやはり行列に並ぶしかない、ってなことになってしまう。
幸い、人形町界隈には良い店が多く、店選びには苦労しない。
「玉ひで」のすぐ隣にある、洋食屋「小春軒」を訪れることにした。
この店は明治45年創業の界隈でも老舗の洋食屋である。
現在のご主人で4代目。
小春軒という名前も初代主人の小島種三郎氏と奥方の春さんの名前をあわせてつけたというほほえましい店でもある。
小春軒の歴史を記した額の中には「気取らず、美味しく」という小春軒のポリシーが掲げられている。
まさに「気取らず、美味しく」の素朴な料理がいろいろと並んでいる。
(ひっそりとした佇まいの小春軒)
本日はオムレツライスをオーダー。
が、ついいつものクセで「すんません、オムライス、お願いします」と言ってしまった。
するとすかさず4代目おかみさんに「ごめんなさい、うちにはオムライスないのよ」と言われた。
一瞬、「へ?」と思った。
「うちにはオムレツライスしかないの」と言われて、なーると納得。
「すみません、オムレツライス、お願いします」と言い直した。
ご存じのようにオムライスとは卵の中にご飯がくるまれている代物であり、オムレツライスはオムレツはオムレツ、ライスはライスと別々に出される。
カレーライスのカレールーが最初からかかっているか、それともアラジンと魔法のランプのような銀の器に入れられてくるかの違いなような物か…
いや、もっと違う料理だな、オムライスとオムレツライスは。
というくらいに違う料理であるからして、おかみさんの言うこともごもっとも。
出された料理はやはりオムレツとはまったく違う物であった。
(シンプルながら味わいのあるオムレツ)
オムレツのように味が付けられたライスとハヤシが掛かった卵を一緒に食べるのも良いが、
オムレツは純然たるオムレツとして食べるのも本来の味を堪能できてよい。
卵を切ったときに中からじゅわっと流れ出る具やら半生の卵なんかが良いのである。
このシンプルさ…いかに小春軒が素朴な洋食屋かがわかる。
まさに「気取らず、美味しく」なんだんぁ、と実感した。
(こちらも素朴なドンカツ)
毎日食べても飽きの来ない味…、
「玉ひで」のように大行列をしてまで食べたい、というインパクトはまったくない料理だが、
その分一度食べれば満足、というものではなく、ふとした時にまた食べたくなるタイプの料理だ。
B級料理とは無縁の存在ではあるが、「玉ひで」に大行列するよりも幸せになれるのではないかと思った次第である。
●「小春軒」
東京都中央区日本橋人形町1-7-
電話:03-3661-8830
営業時間:11:00~14:00、17:00~20:00 (月~金)
11:00~14:00(土)
定休日:日・祝日